週刊ゆふあや 週刊ゆふあやを読め捗るぞ

月曜日

一昨日買った「怪物の木こり」という本、面白かった。

最初に奇抜な設定をドンと出して、そのテンションをテンポよくずっと維持しているのもちょ〜すごいし、仕掛けがさりげないから、こっちはミスリードだよな〜と疑いつつもちょっと引っ張られた。動機の説得力もあり、綺麗なエンタメのお手本みたいな小説だ。うおー。

 

火曜日

新しい歯医者で仕事だよ!応援よろぴこ!

納税は本当に大切だってこと、最近ようやく分かってきた!納税をしよう!

 

水曜日

夜、夫と散歩に出たらどしゃ降りの雨が降ってきて、二人とも傘を持っておらずずぶ濡れになった。雨でこんなに濡れたのは初めての事で楽しい。

どしゃ降りの中を歩くと、目に雨水がめちゃめちゃ入ってくる。下着まで濡れるような雨でも、ポケットの中は意外と濡れない。そんな発見もあり、良かった。

 

木曜日

散髪をした。美容師が最初にふってきた話題が池田エライザの件だったので驚いた。普通じゃないぜ。さすが、私が見込んだ美容師……。

スマホの調子が悪くなり、新しいものを購入。おかげさまで、タップひとつでアスキーアートが打てるようになった。やったネ。

   *      * 

  *   + おわりです 

     n ∧_∧ n 

 + (ヨ(* ´∀`)E) 

       Y   Y    *

 

金曜日

「塩田先生と雨井ちゃん」の塩田先生ってマジでかっこよくない?通ってる学校にこんな先生いたら本気で気が狂いそう。

matogrosso.jp

昔からつり目の女の子が本当に好きで、自分もつり目になりたかったので、雨井ちゃんも大好き。ちょう可愛い。

それでここから早口になるんだけど、二巻に塩田先生がオムライス作る話があって、塩と重曹を間違えて苦くなっちゃうっていう展開なのね、でもさ、食用重曹なんて製菓にしか使わなくない?普段料理しないのに?家に食用重曹?は?お前まさか浮気してんのか????って勝手にキレたよね。でもその後で、あっでも塩田先生って急に思い立ってカルメ焼き作ったりしそう!童心を忘れない所があるから!!!そうだ!!!カルメ焼きだ!!!!!so cute!!!!!!好きです!!!!!!って自己解決した。多分思いついた瞬間よだれ垂らしてたと思うよ。でも、自分がそんなキモ人間になってしまってでも応援したいカップル、それが塩田先生と雨井ちゃんな訳よ。片思いすれ違いじゃなく、もうすでに付き合ってて、同じ学校内にいるし明らかにどスケベなんだけどキスはほっぺでしかもたまーーーーにしかしないというプラトニックぶりから先生の本気度が分かってさ、もう間に入る余地無いんだけどむしろその方が気持ちいいのね。いや、2次元だから間に入るもクソもないんだけど!!!!いいから早く四巻出してくれ〜〜〜い!!!!!ドーーーーン!!!!!!!!

 

土曜日

涼しかったので作業が捗った。

そういえば、インターネットで「〇〇しろ捗るぞ」って言う人いなくなったな。「〇〇な現象に名前をつけたい」って言う人はまだ時々見かける。

夜、平山夢明の「DINER」を読み始める。まだ20ページくらいしか読んでいないのに、すでにどうしようもなく面白い。続きが楽しみ!

週刊ゆふあや ホラー映画

月曜日

夫が「漫画を描いたけど読む? 多分嫌いなタイプのやつだと思うけど……」と言ってきて、適当に「うんちの漫画?」と返したら、「うんちの漫画は好きでしょ……」と言われた。え!

 

火曜日

洗濯物を干そうとしたら、ベランダにひっくり返ってモゾモゾしているセミがいた。

夫が指を差し出すと掴まって、最後の力でどっかに飛んで行った。土のある所に着地しているといいなと思う。

 

水曜日

久しぶりに行ったけど、スタバっていい所だね。なにしろ、クーラーの温度設定がちょうどいい。ドトールが好きなんだけど、夏行くと寒くてお腹こわす。

 

木曜日

誕生日。楽しい日だった。

31歳のうちに、小説で何か賞をとります。

 

金曜日

コメディ映画の名作と書いてあったので「ビッグリボウスキ」という映画を三分の一くらい見た。今のところ笑っていない。これからだろうか。

続けて映画の話をすると、「リング」「らせん」が怖くて面白かったので、国産ホラーに興味が出て、先日「呪怨」を見た。設定がかっちりしていた「リング」に比べると、ストーリーがあるようなないようなモヤモヤした感じ。

出てくるお化けがただの”白塗りの人間”になってしまったのは画質の向上のせいだろうか。お化けが出ると笑ってしまうというヘンテコな体験だったが、怖いの苦手なので正直ほっとした。(「リング」の”呪いのビデオ”は作られて二十年経った今でも通用する怖さで、脳に焼き付いてしまったので……)

 

土曜日

月に一日か二日、病的に眠い日がある。もうおかしいくらい眠いので、仕方なく寝て過ごす。夕方のそのそ起きて、近所のインドカレー屋に行った。インドカレーはいつだってうまい。

帰りに本屋に寄って、流行ってそうな小説を購入。

倉井眉助「怪物の木こり」と、井岡瞬「悪寒」の二冊。「怪物の木こり」はさわりだけ読んだがすでに面白い。凶悪殺人犯の主人公が自分を襲った犯人を殺そうとする話なんだけど、主人公の友達がもっとやべー超凶悪殺人犯だったりとか、序盤からアクセル全開ですごい。続きが楽しみだ。

 

週刊ゆふあや 水平

月曜日

としまえんが閉園した。

東京出身だけどとしまえんには何の思い入れも無くて、ただひたすらにハリーポッタースタジオの完成が楽しみ。

ここで何度も言っている気がするけど、ハリーポッターは本当に素晴らしい物語なので、友人知人に読んでいない人がいたら、この機会に読んでみてほしいと願う。

子供向けのファンタジーでしょ? と思っていた時期が私にもあったけれど、物語の根底にあるのは「血」と「差別」だし、敵は骨の髄まで悪人だけれど、それを倒すのは完全な善人とは言い難い人達。少年は荒れていく魔法界の中で思春期を迎え、若さゆえの傲慢さで突き進み、失敗して、時に周囲と衝突する。ファンタジーにはリアルと丁寧な人物描写が特に求められるのだと、ハリーポッターから学んだ。

 

火曜日

ただベッドに横たわってるだけなのに「あー!もう嫌だー!」って独り言を言ってしまうことが多々あって、何が嫌なんでしょーね?

 

水曜日

西尾維新は一日二万字書いているらしい。

 

木曜日

「ディヴァイン・フューリー 使者」という映画を見た。頭がからっぽの状態になれるタイプの映画で、リラックス効果大。

簡単にいうと「神を信じない格闘家とエクソシスト神父が闇の司教と戦う悪魔祓いバトル」。この説明だけでグッとくる人は見る価値ありかと思う。

格闘家役は「梨泰院クラス」で有名なパク・ソジュン。ムキムキの裸体に神父の服を纏い、その上に革ジャンを着て、バイクで闇の司教を倒しに行くというシーンが良かった。闇の司教はちょっと雑魚すぎたけど。

同じ監督、主演の「ミッドナイトランナー」も見たけど、「ディバイン・フューリー」の方が馬鹿馬鹿しくて好みかな。(ミッドナイトランナーは敵が生々しい凶悪犯罪グループ、闇の司教に比べると随分ダーク)

 

金曜日

洗濯機で脱水ができなくなった。

きちんと水平に置かれていない場合や、排水溝が汚れている場合に起こるらしい。

水平器の気泡を見たら、びっくりするくらい中心からずれていた。でも、気泡を中心にしようとすると、右奥側の足の下に少年ジャンプを一冊かませるぐらいの大調整が必要で、試しにその状態にしてみると、明らかに洗濯機が左前につんのめった風になる。おかしい。この状態が水平ならば、世界がゆがんでいるということだ。

そんなはずがないので、とりあえず排水溝をよく掃除した。直ったかどうかは試していないので不明。

そして今日も「元気が出るチャーハン」にコメントが2件も。どうもありがとう。本当に嬉しい。嬉しくてジャンプした。

 

土曜日

洗濯機直った!よかったね〜!

今日は、夫とアイス食べながらアド街を見たのが楽しかった。下北沢、不思議で楽しい街だよね。文化的で、雑多で、でも高級感もあって、食べ物が高く、服は安い。

週刊ゆふあや 夫とiPad

月曜日

私のiPadを夫も使えるようにした。

前々から共有させてほしいと言われていたのだが、iPadには私のインターネット生活が全て入っているので、抵抗があり断っていた。夫が私の個人的な部分を勝手に見るとも思っていないし、見られた所で何も無いけど、自分のスマホタブレットを触られるのって、皮膚を撫でられているのと変わらないくらいゾワゾワする事だと思う。

でも昨夜、夫がスマホの小さな画面で「ルーキーズ」を読んで「ううっ、感動する……」とか言っていて、何だかもう、iPadのでかい画面でで読ませてやりたいな……と思ってしまった。好きな男がスマホでちまちまルーキーズ読んでたら、誰しもがそう思うはずだ。自分のプライバシーよりも、夫に大画面でルーキーズを読ませたいという気持ちが勝った瞬間だった。

余談だが、夫は時々森田まさのりが描く絵の顔マネをしてくれる事がある。

 

火曜日

とある一人称のミステリを読んでいたら、うーん、あんまり納得できないなあという感じの解説パートがあった後、「かなり強引な理屈だが美声の男が喋っているので説得力があった」って書いてあってマジでびっくりした。めちゃ売れてる作家の本なんだけど、勇気もらえるね。これでいいんだ。

あと、こういうの読むとやっぱり島田荘司はすごいなって改めて思う。(冷静になるとどう考えても無理なトリックなのに、いつも妙な説得力と、信じたいという気持ちにさせる壮大な夢があるから)

 

水曜日

なんの脈絡もなくサウンドクラウドで見つけたカッコいい曲を貼る日にする。

圧縮/はらきり侍

soundcloud.com

サウンドクラウドで見つけた人、大抵その他の情報が得られ無いまま謎で終わる。

 

木曜日

 バカミスの名作と名高い「六枚のとんかつ」の続編「六とん2」をKindleで買って読んだ。続編と呼べるのは最初の2話だけで(しかも探偵が失踪しちゃった)、あとは昔の刑事ドラマとSFと恋愛のごった煮みたいな不思議な短編集だった。

このシリーズ「六とん4」まであるんだけど、この調子だと4は一冊まるまる真っ当なタイムリープ&ボーイミーツガールになっている可能性がある。そしてやはりあとがきが面白い。

 

金曜日

ライブハウスに行った。

入口で手指消毒と検温、個人情報の記入をして入場。通常のライブとチケット代金は変わらないのに、300人くらい入る会場で、観客は50人くらい。本当に少なかった。

フロアには簡素な椅子が並べられていて、指定された番号に座る。ステージと客席の距離も広くとられていた。

「拍手はいいけど声援はダメ」というルールがだったので、座ったまま、とにかく拍手。普段ならワーワー声が上がる場面でも、無言でいなければならなくてもどかしい。元々ペンライト制度があるアーティストなので、持参したペンライトを振れたのは良かった。これが無かったら、演者からは何も見えず声も聞こえずで、仕方ないと分かっていても結構悲しいのではないかと思う。

同時に有料配信も行っていて、曲の途中でたまにカメラに近づく、曲の合間にスマホを見ながらコメントを拾うなど、配信の視聴者に向けたサービスも並行してやっていた。会場と配信、どちらもお金を取る以上、両方大切にしなければいけない。このスタイルは、かなり”今”を象徴しているなと思う。

とりあえず、私が見てきたライブハウスの現状がどんな感じかを淡々と書いてみた。久しぶりに大きな音で好きな音楽を聞いてとても楽しかったし、厳しい中でもエンターテイメントを提供しようと奮闘する人々に鼓舞され、私も頑張ろうと思えた。一方ではやはり、とても苦しい気分だ。この状態で3500円は、安すぎる。

 

土曜日

私が書いた短編未満の短い小説「元気が出るチャーハン」に「おもしろかった」と一言コメントをくれた人がいた。家族や友人以外でそんな事を言ってくれたのは、あなたが初めて。ここ最近の出来事で一番嬉しかった。本当にありがとう。

【短い小説】元気が出るチャーハン - ゆふいん日記

 

週刊ゆふあや 梨泰院クラス、スア派かイソ派か

月曜日

「蝉かえる」という短編集を読んだ。しみじみと感動する鮮やかな解決。優しい読後感。間違いなく、これからのミステリ界を引っ張っていく人……。前作の「サーチライトと誘蛾灯」からの進化もすごくて、最近読んだ本の中ではかなりぐっときた一冊。

 

火曜日

生協が来る前に冷蔵庫が空になってしまうことが多々ある。仕方なくスーパーへ。

袋をくれなくなったので、大きなリュックを持って行く。食べ物をたっぷり詰めたリュックを背負って帰るのは、ビニール袋をぶら下げて帰るよりも逞しくてカッコいい気がする。「待ってろ、今食糧を届けるからな……!」みたいなイメージ。

 

水曜日

久しぶりに「六枚のとんかつ」を読み返した。以前読んだ時よりも面白く感じる。特に「黄金」のテンション高くミスっていく感じがすごく好きだな。あとは「最後のエピローグ」の天丼は新鮮に笑えた。全体的にギャグの馬鹿馬鹿しさが振り切ってるから、すごく好感を持って読める。

バカミス(バカみたいなミステリ)の名作として有名な本で、出た当時は「たんなるゴミ」「誰にでも書ける」という批判に曝されたとあとがきと解説にあったけど、めちゃ言葉きついな。私だったら泣いちゃうけれども!

最新作「あなたをずっと、探してた」も買ったので、明日の道中読もう。

 

木曜日

友人と炎天下の上野動物園へ。

帰りに「みはし」であんずのかき氷を食べたのだが、あんずが四枚ものっていて、中のシロップにも刻んだあんずが入っているという大満足のメニューだった。普段はフルーツクリームあんみつ一択だけど、たまには冒険も良い。

久しぶりに友人に会い、人と会うっていいもんだな~と思った。

 

 金曜日

こつこつ見ていた「梨泰院クラス」も残り三話。話の本筋である復讐劇と並行して、スアとイソという二人の女性が主人公の男を取り合っている。

素直になれずに自ら茨の道へ向かい、子供のころからの長い付き合いと、昔好意を寄せられていたという武器だけでひたすら待ち続けるスア。

欲しいものに対してどこまでも貪欲で、好きになったら呆れるくらい素直。人を惹き付ける魅力を持つ天才肌のイソ。

どう考えてもイソが勝つんだろうなーと思いつつ、スアに勝ってほしいと思っている自分がいる。そりゃ、誰だってイソみたいに生きたいし、イソみたいな女が好きでしょ。でも、なぜかああいう風にはできない。どうしてもスアに感情移入してしまう。

スア、がんばれよ……。

 

土曜日

餃子の満州に行ったのだが、全体的にどんどん味が落ちていて悲しい。定期的に行ってるから分かる。

フジロックの過去映像配信かけながら作業していて、平沢進が特に良かった。

【短い小説】元気が出るチャーハン

「元気が出るチャーハン」 

 

 大学近くに借りたアパートは築三十年のワンルームで、狭くて古い家だったけれど、僕は気に入っていた。何しろ良かったのはすぐ近くに商店街があることで、安くて美味しいお惣菜屋さんや、さつま揚げの専門店、一人分の刺身を気軽に作ってくれる魚屋さんなど、大好きな店ばかりだった。どの店の人も明るくて優しくて、良いものを安く売りたいという共通の願いを持っていた。大学時代の僕の体は、商店街の人々が支えてくれたと言っても過言ではない。

 そんな商店街の人々の中でも一番お世話になったのは、中華料理店を営む田中のおっちゃんだ。おっちゃんは小柄ではげていて、いかにも人好きのする顔だった。いつも腰が低くて、人助けが好きで、おっちゃんに助けられたことが無い人はあの近所には居ないと思う。倒れた自転車を起こしたり、お年寄りの荷物を運んだり、公園を掃除したりと、店が休みの日も何かしら誰かのために働いているような人だった。

 

 ある時、実家からの仕送りが止まってしまった。父の経営する工場が芳しくないと知ったのはその時だ。僕はすぐにアルバイトを始めたが、バイト代が入るまでは今あるお金で過ごさなくてはならない。商店街の惣菜も高嶺の花になってしまい、毎日安い食パンでしのぐ日々だった。

 ある日のバイト帰り、暗くなった商店街を歩いていた。ずっと先に、ぽつんと明かりが見える。僕は吸い寄せられるようにその光に向かっていった。そこが、おっちゃんがやっている中華料理店だった。赤いのれんの向こうから、油と醤油の香りが漂ってくる。労働後の空腹をラーメンやチャーハンや餃子で満たしたら、どんなに幸福だろうと思った。しかし財布には殆ど金がない。その時の僕にとって、中華料理なんて夢のまた夢だった。

「おい、どうした」

のれんの向こうから、おっちゃんの愛想の良い顔が覗いていた。これが僕とおっちゃんの出会いだ。

「あ、いえ何でもありません」

何だか急に恥ずかしくなり立ち去ろうとすると、おっちゃんはなぜか慌てたように叫んだ。

「なんだあ!そんなに痩せちまって!ちゃんと飯食ってるのか?」

「あの、本当に大丈夫です」

「大丈夫な訳あるかよう。そんな真っ白な顔見せられちゃ、心配でしょうがねえや。今チャーハン作ってやるから、入んな!」

「でも僕、お金持ってなくて」

「金なんかいいから、ほらほら」

僕は半ば無理やり店の中に引っ張りこまれた。店の中は、何とも良い匂いで満ちている。四人掛けのテーブルが二つとカウンターに椅子が五つ。一番奥の椅子にはニッカボッカを履いた男性が座り、ラーメンを啜っていた。僕は遠慮がちに、男性とは反対側の端の席に座った。

「あんちゃん、餃子も食うかい」

「あ、いえ、そんな」

「遠慮すんなって。もう焼いてんだからよ」

おっちゃんは鮮やかな手つきで中華鍋を振るいながら笑った。

「おっちゃん、またお人よししてんのか」

突然ニッカボッカの男が喋ったので、僕はどきりとする。確かに、僕がお腹をすかせていたからといって、無料でごちそうになるなんておかしいのだ。この人だってお腹がすいたからこうして店に来て、代金を払って食事をしているのに。

「お人よしなんかじゃないさ、難しいことはわかんねえけどよ、あれだ、センコートーシってやつだ」

「先行投資?」

「タカシだって、大人になってもこうして時々店に来てくれるだろ。大人になった時に、俺の味を思い出してまた店に来てくれたらそれより嬉しい事はない。そのためならいくらタダ飯食わしたって惜しくないのよ、俺は」

「変わってねえなあ」

ニッカボッカの男はフフッと笑う。

「おっちゃん、金置いとくから後で取って。じゃ、またな」

男が去った後のカウンターには、空になったどんぶりと五千円札があった。なんて粋なんだろうと思った。

「ほい、お待たせ」

目の前に大盛のチャーハンと餃子が置かれると、僕は礼を言うのも忘れて夢中で食べた。その気取らない味付けが旨くて旨くてたまらなかった。おっちゃんの素朴で面倒見の良い性格そのものが、料理に現れているのだと思った。

「ハハハ、そんなに旨いか」

「旨い、旨いです……旨い」

気付くとぽろぽろと涙が零れていた。こんなに人から優しくされたのは、生まれて初めてだった。

「おいおい、泣くほどかい」

おっちゃんはおろおろとティッシュの箱を渡してくれた。涙で濡れたチャーハンを、僕は一粒残さずかきこんだ。あれより旨いチャーハンを、僕はまだ食べたことが無い。

「遠慮せずにまたいつでも来いよ。財布は忘れてこい」

おっちゃんはそう言って僕を見送った。

その帰り道、僕は頭がはっきりと冴え、力が漲るのを感じた。いつもは食パンを食べて、そのままふらふらと眠ってしまうのに、その日はしっかりと大学のレポートを仕上げることが出来た。

 

 それからバイト代が入った日は、おっちゃんの店に行くのが恒例行事になった。おっちゃんは五回に一回くらいしか金を受け取ってくれなかったが、行くと嬉しそうに僕を迎え、頼んでもないものまで出してくれるのだった。

おっちゃんの料理はどれも素朴で旨いのだが、中でもチャーハンは何度食べても絶品で、食べると必ず元気が出た。バイト代が入る前なのに無性に食べたくなる時もあって、それには少し困ったが。

 大事なテストの時や女の子と遊ぶ時、就職の面接の時も、前日の夜はおっちゃんのチャーハンを食べてゲン担ぎをした。全部上手く行った。おっちゃんに礼を言いに行くと、お前の実力だよと言ってまた頼んでもない餃子を出して来るのだった。

 

 おっちゃんの店のことは、大学の友人には黙っていた。タダ飯目的でおっちゃんに近付く奴が増えると困ると思ったからだ。でも、彼女は別だった。とある飲み会で出会った年上の彼女は、真面目で聡明な女性だった。彼女がわざわざタダ飯を食いに行く訳が無かったし、僕は安心しておっちゃんの話をすることができた。

「あーあ、話してたら食べたくなっちゃったよ。今夜行ってみない?」

 僕が彼女を連れて店に行ったら、おっちゃんはきっと驚くだろう。そして、すごく喜んでくれるはずだ。こんなに素敵な彼女がいるんだって、おっちゃんに紹介したい。彼女もきっとあの味を気に入るだろうし、いつか結婚したら、子供も連れて家族で店に行きたい。僕にとっておっちゃんは親以上に親みたいな存在だから、第二の故郷へ里帰りするような感じだろうか。

 しかし僕の想像と裏腹に、彼女の表情は険しかった。

「その店には、もう行かないで」

「えっ、なんで」

「ろくでもない人間よ、その人。どうせ歯がボロボロのジジイでしょ」

 僕は腹が立った。なぜ会ったこともないのにそんな事を言うのか理解できなかった。確かに少しお人よしすぎる所もあるし、歯も所々無いけれど、そんな風にろくでもないとかジジイとか言うのはおかしい。僕にとって、おっちゃんを貶されるのは家族を貶されるのと同じことだった。

 彼女とはそれきり上手くいかなくなって別れてしまった。

 彼女と別れた夜も、おっちゃんのチャーハンを食べた。涙まじりのその味は、初めて食べたチャーハンの味を思い起こさせた。しかし、おっちゃんに慰められながらチャーハンを食べ終えると、帰り道ではすっかり元気を取り戻しているのだから不思議だ。

 

 それからしばらくして、僕は卒業を迎えようとしていた。つまり、この町を離れるのだ。

身の回りの物を段ボールに詰め終わると、無性におっちゃんのチャーハンが食べたくなった。最後の晩餐は、おっちゃんの店だ。ずっとそう決めていた。

「おっちゃん、今までありがとう」

「いいんだ、礼なんて。何が食いたい?何でも好きなだけ作るからよ」

「チャーハンと餃子」

「欲がねえなあ」

おっちゃんは鮮やかな手つきで中華鍋を振るう。出てきたのは、いつもと変わらないあの味だ。最後の日であっても、決して特別な事はしない。いつでもこの場所で、いつもの味を守り続ける。それがおっちゃんの美学なのだろう。

「またいつでも来いよ」

おっちゃんのその笑顔までが、いつもと変わらないのだった。また明日もここに来れるような、そんな気分にさせてくれる。

「お世話になりました」

僕が深くお辞儀をすると、おっちゃんはよせやいと照れくさそうに笑った。

 

 学生時代を過ごした商店街は、すっかり寂れていた。

僕が大学生の時点ですでに高齢化が進んでいた地域でもあったし、跡継ぎがおらず閉めてしまった店も少なくないはずだ。

人もまばらな商店街を歩くと、見慣れた赤いのれんが見えてくる。香ばしい油の匂い。おっちゃんの店はまだやっている。

 大学を卒業した後、最初に入った会社で学んだノウハウを武器にして、気の合う友人たちとベンチャー企業を立ち上げた。事業は成功し、今は都内のタワーマンションに住んでいる。この町で過ごした貧しい日々を、おっちゃんが支えてくれたからこそ得られた成功だ。本当は妻と子供をおっちゃんに見せたかったのだが、そちらの方はまだ上手くいっていない。

僕はのれんをくぐった。あの日見たニッカボッカの男も、こんな気持ちだったのだろうか。

 

 カウンターの中では、おっちゃんが中華鍋を振るっていた。昼時だから客が二人。おっちゃんの店にしては大繁盛だ。

僕は懐かしいカウンターに座り、おっちゃんがこちらを向くのを待った

「へいいらっしゃ……ユウスケか!?」

「うん、おっちゃん、久しぶり」

「大きくなったなあ~!」

おっちゃんは目を細めて笑った。あの頃だって随分大きかったはずだけれど、おっちゃんには、守ってやらなきゃいけない小さな子供に見えていたのだろう。

「おっちゃんのチャーハンがどうしても食べたくなっちゃってさ」

「あー……チャーハンか……」

おっちゃんが珍しく困ったような顔をした。

「実はな、チャーハン用の特別なスパイスがあるんだが、それを切らしちゃってさ。チャーシュー麺はどうだい?」

僕はがっかりした。完全にチャーハンを食べる気でいたので、チャーハンが食べられないと思うと胸を掻きむしりたくなる気分だった。

「スパイスを買ってくるよ。どうしてもチャーハンが食べたいから」

「そうか……」

おっちゃんは少し思案してから、どこかに電話をかけた。

「おう、お店にゃ伝えておいたから、ここに買いに行ってくれるか。金はこのポーチに入ってる」

「了解」

「せっかく来てくれたのに使いっ走りにして悪いな」

「全然いいよ、車だしすぐ戻る」

僕は駐車場に戻り、メモに書いてある住所をカーナビに入力した。

 

 着いたのは、繁華街の真ん中にある雑居ビルだった。怪しげなマッサージ店ばかりが入っている少々不気味なビルだったが、中華食材の専門店というのは、案外こういった所にあるのかもしれない。

しかし、生臭いエレベーターを降りても、そこにはアルミ製のドアが一枚あるだけだった。階を間違えたかと思いメモを確認するが、確かにここで間違いない。僕は恐る恐るドアをノックした。

「あのー、すみません」

中から出てきたのは、目つきの悪い若い男だ。

「誰」

「あ、えっと、この住所ってここで間違いないですか」

「そうだけど、何の用」

「中華料理店のお使いだったんですけど、メモが間違ってるみたいですね、失礼しました」

僕が帰ろうとすると、男が思い出したように言った。

「ああ、あのキチ……田中さんの。さっき電話貰ったよ」

僕は困惑しつつ、招かれるまま部屋に入った。ブラインドが閉め切られた薄暗い部屋にはいくつものパソコンが並んでいる。男は僕にソファを勧め、自分はデスクの椅子に座った。デスクの上には、携帯電話が何台も置かれている。

「えっと、ここは中華食材のお店……なんですか」

「ハア?」

「通販専門とか?」

「何言ってんだ、バカか」

男が苛ついたように僕を見た。

「金は」

僕は慌てておっちゃんに預かったポーチを手に取り、チャックを開けた。そこには一万円札がごっそりと入っていた。

「ひっ」

僕が落としたポーチを男が拾い、勝手に中から札束を取り出して、慣れた手つきで数え始めた。

「ハイ、ちょうどね。じゃあこれ」

男はポーチに何かを入れて僕に寄越した。僕は慌ててその部屋を出て、エレベーターを待つのももどかしく階段を駆け下りた。車に乗って郊外へ出ると、ようやく気分が落ち着いた。

「一体何なんだよ。あんな大金……。何を買ったっていうんだ」

僕は信号待ちでポーチの中身を確かめた。白い粉が入った小袋がぽつんとそこにあった。

 

 おっちゃんの店に戻った時には夕方になっていた。昼と夜の境目のこの時間に、客は一人もいない。

「おうユウスケ、悪い悪い。今チャーハン作ってやるから」

おっちゃんはあの頃と変わらぬ人好きのする笑顔で、いそいそとポーチを持って厨房に入っていく。

「おっちゃん、それ……何?」

「ああ、これはな、チャーハン用の特製スパイスだ。おっちゃんが業者さんとよーく話し合って、食うと元気が出るスパイスを開発したんだよ」

「随分……高いんだね」

「まあなんだ。俺はお客さんがおいしい、元気出たーって笑ってくれるのが好きだからよ。いくら赤字でも材料はしっかり良いモノにこだわりたいんだよ。店の人もいい人だったろ?いつもすごく質の良いスパイスを譲ってくれるんだ」

「おっちゃんそれって、ま……」

「ほい、お待たせ」

僕の前にチャーハンが置かれる。僕は食べたく無かったが、おっちゃんがにこにことこちらを見ているので、仕方なく蓮華を持った。

「なんか懐かしいな。店の前で腹をすかせてた弱々しいお前を思い出すよ。今じゃそんな立派なスーツ着てよぉ……グスッ」

おっちゃんは目頭を押さえた。僕も違う意味で泣きそうだった。

チャーハンが激烈に不味かったのだ。

明らかにおかしな苦味がある。なんだこれ。粉薬を舐めてるみたいだ。

「ユウスケ、今日はやけに水飲むなあ」

「ああ、何か喉乾いちゃって」

「ユウスケ、彼女はできたのか」

「い、いや。アハハ」

「なんだユウスケ、久しぶりに会うからって緊張してんのか」

「まあ、まあね。ハハ、ハハハ」

僕は水でチャーハンを流し込むと、一万円札を十枚、カウンターに置いた。これまでの飲食代をまとめて払おうと決めていたのだが、"手切れ金"という言葉がどうしても頭に浮かんでしまう。

「おっちゃん、じゃ、お金置いとくから」

「金なんていらねーよう」

「いいから。じゃあね」

僕は冴えきった頭を抱えて、泣きながら家に帰った。涙は止まらないが、とても元気だ。今なら何だってできそうな気がする。あの企画も、あの企画も、全部上手くいく。

 そういえば、大学時代の元彼女は駆け出しの刑事で、麻薬捜査を担当していた。おっちゃんが捕まっていない所を見ると、まだ証拠が揃っていないのかもしれない。しかしまさか、客に出す料理に混ぜているとは、警察も把握していないだろう。そんな事をしているのが解れば、とっくに死刑だ。

 腹を空かせていたから解らなかっただろうあの苦味。

 僕は知らぬ間に麻薬中毒になり、そして、無意識のうちに克服していたらしい。引っ越してしばらくはおっちゃんのチャーハンが食べたくて仕方がない日が続いたが、ただのホームシックみたいなものだと思っていた。

 

 それから数年、結婚して子供もできたが、おっちゃんには見せていない。あれ以来おっちゃんの姿を見たのは一度だけ、朝刊の小さな記事の中だ。

 ”悪質な健康食品販売の男から主婦らを救う、近所の名物おじさん”

 商店街の近くで開かれた怪しいセミナーで、「やせる菌を増やす薬」と称したただの小麦粉を高額で売りつけていると聞いたおっちゃんが、会場に乗り込んでいってやめさせたという内容の記事だった。結果的に犯人は捕まって、被害者のお金は戻ってきたらしい。記事には、照れたように笑うおっちゃんの顔写真とコメントが載っていた。

「こういう、偽物を掴ませる外道な商売だけは、俺は許せないんです」

 

週刊ゆふあや 病気良くなった

月曜日

CDTVを見ていたら、nobodyknows、ロードオブメジャーのボーカル、Def Techなど、私が中学生くらいの時に流行っていた人達が次々と出てきて驚いた。

ロードオブメジャーの人は他のバンドメンバーは来ておらず、一人であの大ヒット曲「大切なもの」を歌っていた。もちろん私が重ねてきたのと同じだけ歳をとっていて、歌も別に上手くない。

でも「大切なもの」のすごく青いような、それでいて過去を振り返るような内容の歌詞とその姿、歌声がぴったりハマっていて、めちゃくちゃ熱かった。良い歌だったなあ。

 

火曜日

逆流性食道炎、すごく良くなって食欲もあるし胃もたれもしなくなった。嬉しいので大きなパフェと大盛りのチャーハンを食べた。

病気が分かるまでは毎日が苦しくて苦しくて、食べなければ生きられないのならもう舞台から降ろしてくれという気分だった。

毎日ご飯が美味しい人には想像つかないかもしれないけど、食欲が無いのに空腹になるというのは、生きてるのに死んでるみたいな感じ。自分の作った料理が全然食べられないというのも意味不明でストレスだった。

パフェ美味しかった!ハッピー!

 

水曜日

先週やってた小説は一応完成で、まだ時間あるからちょっと寝かせてみようと思う。

今日は並行してやってた長編を触ってみる。私は悪くないかなと思っていたけど、夫に読ませたらあまり反応が良くないのでやる気なくした。というか、ギャグで書いてたやつをホラーの賞に出そうとしている時点でおかしいのかもしれない。やーめぴ!明日やろー。

 

木曜日

ボツにしたやつをベースにまた書き直す。一章書いてみて、やっぱり技量が足りてないなという感じ。

イデアだけを話しているときはすごく盛り上がって、ぎゃはは!おもしれ〜!とか言ってるのに、書き始めたら速攻でお通夜の時の顔になる。

 

金曜日

書き直したやつもボツにして、イチから考えるが浮かばない。考えるのをサボって、クソアイデアで短い話をひとつ作ってしまった。これと一緒に更新するので、気になる人はどうぞ。6千字だからめちゃ短い。すぐ読める。

 

土曜日

夫も休みで、二人でだらだらと過ごした。ずっと考えていた現実的なアイデアが、風呂に入っているときにポンとでてきた。とりあえずこれで書いてみよう。

夕食後、ジャパニーズホラーの名作と名高い「リング」の映画を見た。全然怖くないんだろうなーと思って見始めたら、まじでめっちゃ怖い!!!

なんでビデオテープやねんってこと以外は話の筋が通ってて説得力があるし、とにかく呪いのビデオの映像が嫌すぎる。あんなに嫌悪感を抱かせる不気味な映像をよく作れるもんだなって思った。そして、呪いの前で人間は無力。それも怖かった。